近藤譲/オリエント・オリエンテーション

作品紹介・説明

 これからお聴きいただく曲例は、私(引用者註:近藤譲氏)自身の作品で、若い頃、二十歳代の半ばに書いた《オリエント・オリエンテーション》という曲です。この曲は、二つの楽器で演奏されるものですが、その二楽器は、互いに同種のものでありさえすれば、どの楽器でも構いません。(中略)
 これを書いたのは一九七三年でしたが、当時、NHKの現代音楽番組ディレクターを務めておられた上浪渡(引用者註:うえなみわたる)さんがこの曲を聴かれて、「ああ、これ三味線でやったらいいかもしれないね」とおっしゃったのです。このような反応は、私にとっては全く意外で、何と応えてよいのか戸惑ってしまったことを憶えています。しかし、私自身、今になってこの曲を聴いてみると、二楽器がユニゾンで一本の旋律線を辿り、やがてそのユニゾンが少しずれていくという様子は、伝統的な邦楽に見られるヘテロフォニー的な構造に似ていなくはない、と感じます。
 しかし、この曲を書いた当時の私は、正直なところ、邦楽というものをほとんど知りませんでした。邦楽を聴く経験が非常に乏しかったというだけでなく、その音楽についての知識も、何も知らないに等しいほど貧弱なものでした。この作品は、私自身の純粋に西洋(的)音楽のバックグラウンドから、音楽の基礎構造を再検討してみよう――つまり、「旋律」とは何かということを、一本の単純な音の列だけで成立し得る音楽の作曲を試みることによって考え直してみよう――という動機で、書いたものです。ですから、日本の伝統との関わりなどということは、少しも意識したことがなかったわけです。
 たしかに、この曲の「オリエント・オリエンテーション」(無理に訳せば、「東洋案内」とでもなるのでしょう)という題は、非常に思わせぶりに響くかもしれませんが、これも、決して「東洋的」といったことを意識して付けたわけではありません。曲を書いているときにたまたま読んでいた本――多分、フランスの哲学者ジャック・デリダの著書だったと思うのですが、記憶が定かではありません――の中にあったこの言葉の響きが面白いと思って、題として使っただけです。つまり、orientという言葉とorientationという言葉を重ねた様子が、二つの楽器が同じ旋律線を重複しながらも少しずれているという曲の構造に似ているように感じられたので、これを題にしたらちょうど良いだろうと思ったに過ぎないのです。(中略)
 私は、前に申しましたように、《オリエント・オリエンテーション》と日本の伝統音楽との繋がりを指摘されて、そのようなことがどうして起こり得るのかと当惑しました。しかし、それと同時に、それによって、実験に付き物の不安が少し和らげられたようにも感じました。つまり、似たようなものが既に在るのだとすれば、それは、私の実験的作曲が単なる無理無法ではなかったことの確認にもなります。「そういう音楽があってもいいよ」と言われたような気がして、安心してその線に沿って更に実験的な作曲を続けていくことができる――自分の行った作曲が、日本の音楽「伝統」によって(正当化された、とまでは言わないにしても)少なくとも、追認された。そう感じることができたのです。
(後略)

近藤譲・著「音を投げる」(春秋社)所収、
「現代の作曲と「伝統」(講演)」より引用。原文タテ書き。

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近藤氏が「線の音楽」と称する方法論に従って書いた作品の、第1作目。
全体は、大きく4つの部分に分かれています。

[A] 0'00''~
二人の奏者が、リズム・音程共に完全なユニゾンを奏する部分。

[B] 1'31''~
奏する音程は全く同じだが、二人目の奏者の発音が不規則なタイミングでズレる。

[B'] 2'56''~
Bの後半では、両者のズレかたが、よりリズミックな身振りを見せるようになる。

[C] 4'02''~
リズムは完全にユニゾンだが、両者の奏する音程が、たまに異なる。

[D] 5'58''~
B部分とC部分の「規則」の混合。リズムも音程も異なる部分が現れる。


――ある非常に単純な「規則」に従って曲全体が書かれていながら、その規則性を内側から食い破ってしまうような複雑で多様さを持った「聴き方」を結果として誘う、というのが氏の作品の特徴の一つで、それは、この「第1作」から明瞭に現れていると思う。

なお、三味線の音のサンプルは、yukinisuzume氏が下記の場所で無償公開して下さっているものを使わせていただきました。
厚くお礼申し上げます。

三味線のよさげなSoundFont

プロダクト説明

Renoise

07:30 / 172.259kbps

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  • クラシック
  • カバー作品
  • "ORIENT ORIENTATION"
    近藤譲
    (jasrac) 0P6-8750-8
2010/08/26 19:08