作品119 ← プロフィールに戻る
ここは牢ではなかったのだろうか。
すでに体全体を開き降伏の意を示した扉の、その隙間を覗き込んでみる。人は……いない。
だが、他の部屋の様子がこことは違う。外に見えるのは、いわゆる鉄格子の牢だった。
やはり、ここは牢で間違いない。しかし、僕だけなぜ、こんな妙な部屋に監禁されていたんだ。
すでに体全体を開き降伏の意を示した扉の、その隙間を覗き込んでみる。人は……いない。
だが、他の部屋の様子がこことは違う。外に見えるのは、いわゆる鉄格子の牢だった。
やはり、ここは牢で間違いない。しかし、僕だけなぜ、こんな妙な部屋に監禁されていたんだ。
139
今日だけですでに二度も散々痛めつけられ、すっかり、いたぶられ癖がついてしまった僕は、
今度こそ明るく悪趣味な部屋ではなく、ジメジメとした薄暗い場所で目を覚ました。
申し訳程度に灯された灯りが、固い寝台から半身を起した僕の後ろ側に、ぼんやりとした
僕の影を作りだしている。
今度こそ明るく悪趣味な部屋ではなく、ジメジメとした薄暗い場所で目を覚ました。
申し訳程度に灯された灯りが、固い寝台から半身を起した僕の後ろ側に、ぼんやりとした
僕の影を作りだしている。
173
その晩から数日が経った、ある日の早朝――彼女が脱走を図った。
しかし、屋敷を抜け出すどころか、部屋を抜け出してまもなく、すぐに捕まってしまったという。
それとちょうど同じ頃か、その少し前くらいに、僕はあの晩に彼女と出会った部屋を探していた。
暗闇の中、おそらく歩いたと思われる道をなんとかたどりつつ、屋敷をさまよいながらようやく
しかし、屋敷を抜け出すどころか、部屋を抜け出してまもなく、すぐに捕まってしまったという。
それとちょうど同じ頃か、その少し前くらいに、僕はあの晩に彼女と出会った部屋を探していた。
暗闇の中、おそらく歩いたと思われる道をなんとかたどりつつ、屋敷をさまよいながらようやく
160
それから、あっという間に月日は過ぎ、知らぬ間に背もずいぶん伸び、声も変わった。
ここに連れて来られて約三年と少し過ぎた頃、僕は大抵のことを一人でこなせるようになった。
「泣き言も言わず、ここまでよく耐えたものだ」
「アンタ……いえ、あなたのおかげです」
ここに連れて来られて約三年と少し過ぎた頃、僕は大抵のことを一人でこなせるようになった。
「泣き言も言わず、ここまでよく耐えたものだ」
「アンタ……いえ、あなたのおかげです」
132
僕が下層の人間でなければ、初めて乗った車や初めて見る景色に、感動したり興奮したり
したのだろうか。しかし、その時の僕は、故郷から無理矢理引き剥がされた失意と、これから
どうなるのかという不安で頭が一杯で、屋敷までの道のりも景色も覚えていなかった。
車が屋敷に到着すると、男(少女に出会った晩、話をした妙な男だ)が僕を連れて
したのだろうか。しかし、その時の僕は、故郷から無理矢理引き剥がされた失意と、これから
どうなるのかという不安で頭が一杯で、屋敷までの道のりも景色も覚えていなかった。
車が屋敷に到着すると、男(少女に出会った晩、話をした妙な男だ)が僕を連れて
167
……あ。
声こそ聞こえなかったが、抱えあげられる直前、微かに動いた唇がそう呟いた気がした。
なにが、どうなってる……?
でも、その声なき声の意味を探ろうとしたのが失敗だった。今は油断をして良い時ではなかった。
声こそ聞こえなかったが、抱えあげられる直前、微かに動いた唇がそう呟いた気がした。
なにが、どうなってる……?
でも、その声なき声の意味を探ろうとしたのが失敗だった。今は油断をして良い時ではなかった。
162
この国はまだ豊からしい。
なんの問題もなく食べられるものを、平気で廃棄処分するくらいには。
けれど、皮肉にもその現実が、飽食の世界の裏側で細々と生きる僕達の日々と、命を繋いでいる。
それに食べ物だけじゃなく、まだ使える衣服や物なども勿体ないことに(僕達には有難いことに)
なんの問題もなく食べられるものを、平気で廃棄処分するくらいには。
けれど、皮肉にもその現実が、飽食の世界の裏側で細々と生きる僕達の日々と、命を繋いでいる。
それに食べ物だけじゃなく、まだ使える衣服や物なども勿体ないことに(僕達には有難いことに)
183
僕は未だ屋敷の中で、再び帰る道を見失い、右往左往していた。
いくら暗いとはいえ、ここまで方向音痴っぷりを発揮してしまう自分にかなり泣けてくる。
屋敷内には所々、薄明かり程度にかがり火が灯されているものの、ついには見知らぬ場所に
出てきてしまっていた。
いくら暗いとはいえ、ここまで方向音痴っぷりを発揮してしまう自分にかなり泣けてくる。
屋敷内には所々、薄明かり程度にかがり火が灯されているものの、ついには見知らぬ場所に
出てきてしまっていた。
143
屋敷にたどり着くまでの間、僕は僕自身に何度問いかけただろう。
これから自分がしようとしている、そのことの意味を。もし失敗すれば確実に消される。
そうなれば爺さんも助からない。これからやろうとしていることは、そういうことなのだ。
それでも、行くのか。僕に、その覚悟があるっていうのか。
これから自分がしようとしている、そのことの意味を。もし失敗すれば確実に消される。
そうなれば爺さんも助からない。これからやろうとしていることは、そういうことなのだ。
それでも、行くのか。僕に、その覚悟があるっていうのか。
155
世界には大勢の人があふれている、という。
けれど、僕達の世界に関わりを持とうとする者は、ほとんどいない。
僕達の世界に関わりのない、たくさんの人間達。
彼らはそれぞれに世界を持っていて、誰もがその中で、それぞれに主役を演じているという。
けれど、僕達の世界に関わりを持とうとする者は、ほとんどいない。
僕達の世界に関わりのない、たくさんの人間達。
彼らはそれぞれに世界を持っていて、誰もがその中で、それぞれに主役を演じているという。
179
大きな影が爆音とともに、頭上を駆け抜けていく。
灰色がかった白線を空に残しながら、一機の飛行機が空の向こうに消えていく。
その姿を眺めることがいつからか、幼ない少年の日課になっていた。
少年は、そうして空を眺めることが大好きだった。
灰色がかった白線を空に残しながら、一機の飛行機が空の向こうに消えていく。
その姿を眺めることがいつからか、幼ない少年の日課になっていた。
少年は、そうして空を眺めることが大好きだった。
167
「……ってぇ……うぐ、げほ、げほ……!」
「なんだ、その目は……おらぁっ」
不意の衝撃を感じて数秒後、少年は自分の体が宙を舞い、そのまま地面に落ちたのだと知った。
口の中に、じわりと錆びた鉄のような匂いと味が広がる。あれ、この感覚、いつかどこかで……。
「なんだ、その目は……おらぁっ」
不意の衝撃を感じて数秒後、少年は自分の体が宙を舞い、そのまま地面に落ちたのだと知った。
口の中に、じわりと錆びた鉄のような匂いと味が広がる。あれ、この感覚、いつかどこかで……。
199